作品価格が上がって 得るものと失うもの

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作家にとって、作品を作り続けるために、
キャリアを形成し、作品価格を上げてゆくのは命題です。
お金の話を作家から聞くことに抵抗がある人は多いのかもしれないけど、
プロの作家として次の作品を作るためのリアリティ、お金は切り離せません。

僕の作品価格の値段推移を酒器で説明すると。
最初に作った酒器は35000円でした。たぶん25歳くらいの時。
その次のシリーズが65000円。29歳くらい。
次が125000円 30歳。
ちなみに一点ものの特別な酒器は1200000円になりました。
現在は、一点140000円から150000円です。

もちろん、価格を上げるのは新作を作りクオリティが上がっているからです。
最初期の作品と、現在のモデルでは造形、デザインそして作品としての完成度が全く違います。日々の鍛錬の賜物です。


さて、これまで価格が上がってきたことをお伝えしました。
今回のブログタイトルは「作品価格が上がって 得るものと、失うもの」
これを聞くと「いやいや、価格が上がって失うものなんてないでしょ」とツッコミを入れたくなりませんか。
少し、僕の気持ちを話します。

まず、僕の初期作は35000円だったわけです。
買ってくれたのは、知り合いや知り合いの知り合いです。
親戚のおじさんが買ってくれたりしました。
20代の僕はとても嬉しかったです。

それから、どんどんと作品のクオリティを上げてゆくと
最初に買ってくれていた人が、買いにくい価格になってゆきます。

そうです。僕は最初に応援してくれていた人に作品をコレクションしてもらうことができなくなるのです。
そして、価格が上がるということは、まだ見たことのないお客様の世界観に突入することになります。
僕の父はサラリーマンだったから、
身の回りに社長とかお医者さんみたいな収入の多い人のイメージが全くありませんでした。
でも、価格が上がれば、当然お客様はこのような立場の人になってきます。


価格を上げるというのは、そういうことです。
見たこともない世界観に自分と作品を突入させて、
そして、今まで応援してくれた人と別れることになります。

ちなみに、低価格の作品を残しながらハイエンドモデルの価格を上げてゆく作家もいます。
このやり方で行くと、ベンツが軽自動車も作るような構図になり、
ブランドとしての作家性が築きにくいので僕はしません。
つまり、僕の作品はいつも、現在が一番安い状況になります。次作る作品は確実に価格が上がります。


作品価格が上がって、入ってくるお金は増えましたが
そのお金は全て、人と材料に使っているので、僕の生活は全く変化していません。
というか、制作が趣味だし、他に欲しいものがほとんどないので
作っている毎日が幸せなんです。僕にとってお金は、その毎日のためにあります。

酒器の作品を年代順に並べます
最初のシリーズはまだ模様が大きかったです。

下の作品が65000円の作品。模様の精度も高くなってきましたね。

下の作品が125000円で個展で発表した作品です。
このシリーズは先日月刊美術で紹介してもらった「夕刻の海」限定2点で最後です。

ちなみに
金工根付作家の万征さんとコラボした一点もの作品は高価です。