漆の木

漆芸作品は漆の木から採取される
漆の樹液を用いて作られます。

6月から11月くらいまで
4日に一度ずつ掻き子さんが幹に傷を付けて
一滴ずつ採取してゆきます。

漆の木は樹木でありながら
木辺ではない珍しい木です
部首はさんずいです。
これはきっと漢字の成り立ちのときから
すでに漆の木は樹木としてより
漆を採取する木として定着していたからだと言われます。

歴史をさかのぼると
日本人は縄文時代前期から漆とともに生活していました。
漆は山の木ではなく里の木として
日本人の近くにいつもありました。

しかし、この漆の木
特に強い木ではありません。
強い蝋分に包まれた種子は発芽率が悪く
成木の根っこはほぼ真横に伸びるため
風に弱いのです。

人の背丈を越えるほどの
成長を見せてくれたと思ったら
突然立ち枯れしてしまうこともあります。

こんなに弱い漆の木が
自然淘汰されずに残っているのは
人類に樹液を提供する代わりに
自らの繁栄の手助けをさせるよう
プログラムされているからだと思っています。

10年間育てられ
一年間のうちに樹液をありったけ採られ
その年の内に伐採される
悲劇の木のように見えますが、
人間を媒体に繁栄するという
とても複雑な戦略を実現してきました。

私たち日本人は
9000年以上も漆に魅せられてきました
本能的に漆を求めてしまうようにプログラムされているんだと思うのです。
僕はその漆の戦略にまんまとはまって
これからも漆を広める活動を続けようと思います。

漆は人一人が扱いきれるものではありませんので
身をゆだねて僕の人生を使って繁栄してくれれば
本望なのです。