伝統工芸は死んでゆくのか
あらゆる伝統産業が衰退しています。
漆関係も材料や道具が後継者不足で危機的状況です。
作家は大学や研究所など全国にある教育機関が毎年一定数人材を育成しているため
ある一定の人材は育ってきていると言えます。
しかし、時代の流れで美術大学の学生も殆どが女性になってきています。
男性が入らない理由はたくさんあると思います。
収入が見込みにくい美術に男性が没頭しにくい時代なのかも知れません。
そのなかでも続けてゆける人材は一握りです。
特に現代生活から切り離された漆芸はこれからどうなってゆくのでしょうか。
実際のところ、僕は漆芸の未来はこのまま先細りしてゆくと思っています。
ただし、現状のまま進行すればです。
変化が起これば、現状を維持するか、飛躍する事は可能だと思っています。
今まで漆を続けてきて思ったのは
何を作っても、どんなにすばらしい作品があっても
反応する人はしてくれて、しない人は全くしないということです。
以前は「よりたくさんの人に漆の魅力を伝えなくては」と思っていましたが
興味のない人に興味を持ってもらうことは不可能だという事に気がつきました。
元々その人が持っている関心の中に美術的な要素がないと
目の前にどんなに美しいものがあっても、関心を持ってもらえません。
けっきょく、美意識や関心は既にその人の中にあるもので
作家や作品は、誰かの中にある美意識を育てたり、話し合う事はできても
そこに種をまく事はできないのです。
幼少期に美術と触れる事で、美意識や関心を育む事は可能かもしれませんが
お互い大人ならばそれは不可能でした。
ただ、どんな状況でも一定の人は伝統文化や漆の美しさに関心を持ってくれました。
これは、僕や漆がどうこうというのではなく、その人のもっている文化や美意識の許容範囲の広さとしか言いようがないと感じます。
つまり、僕は一定数の限られた人へしか、日本美術の中の漆を語る事ができません。
でも、その一定数の母数を大きくしてゆけば、伝統文化の先細りは食い止められるんじゃないかと思うのです。
今のところ業界全体の事を気にかけているような余裕はないので
まず自分の作品のレベルを上げ続けようと思います。