三十代の作家

ある種の天才を除いたら
美術の世界は長期戦なので、知名度が上がるのは
だいたい三十代くらいだと思っていて、その間当然無名時代があり
そこを全力で駆け抜ける必要があるわけです。

感覚的に僕が「同世代だな」と思える人って、一般的に考えられているより幅が広いかもしれないけど、
自分の年齢の上下5歳くらいで、その世代の人の作品や活動はとても気になるし、刺激もたくさんもらっています。

そして、自然に仲良くなったりするんだけど、
ある部分で共通点があると思うのです。
それは
「傷」です。

この年代になると、10年以上のキャリアがあるわけで
間違いなく、賞賛の何十倍や何百倍もの否定や無関心、心ない言葉を受け止めてきた人なのです。
それを二十代の間ずっと受け止めて、そして少しずつ作品と自分が社会に同期できてきたというか
距離感が取れるのが三十代前後なのです。

それが、ある種の人間的な迫力というか、
圧倒的な悲しみをくぐり抜けてきたから、魅力的なんです。

苦労したから良いみたいなことが言いたいのではなく
同じ傷があり、それでも諦めなかった強い気持ちが作品に現れている。
ちょっと抽象的な文章になっちゃったけど、
「ああ、この人はすごいな」と思える作家さんが多い年代にまで、美術の世界にいられたことに感謝しています。