初心は忘れてしまうもの

初心を忘れないでいたいものだけど、
それってとても難しい。
僕自身、高校生の時みたいな好奇心に満ちた毎日で漆に向き合うことはできません。
だから作品一つ一つに新しい挑戦を埋め込んで、チャレンジし続けているのだと思います。

僕は工房制作を加速させています。
つまり、数人で一つの作品を作っています。
工房制作については、いろいろな意見があって
「一人のアーティストが全て作らないなんて!」と思われるかもしれないけど、
どんな個人作家だって、キャンバスの布織りから始める人はいないわけで、
アナログな伝統工芸の世界で、作品のクオリティを上げるために多人数で取り組むというのは
今後さら必要になってくるように思います。

話が逸れたけど、工房制作をしていると
いろいろな悩みが生じてきます。
お金の悩み人間関係の悩みに終始しますが、
お金の悩みよりは人間関係の悩みの方が、後を引きます。
人間はどんな環境だって、慣れが生じ、初心を忘れ
その環境にどっぷりと浸かってゆきます。
それがいい場合もあるけど、大抵は怠惰になったり
いらないミスをしたりします。

僕がそうでした。
憧れ尽くして弟子入りしたけど、初心を保つことの難しさと戦い続けた修行期間でした。
結局、体調を悪くしてしまったのは、気持ちの整理をできないまま走り続けたからです。

先日、村上隆さんのトークイベントを聴きに行きました。
村上さんのキャリアの説明と、多人数制作の説明。それと、日本における現代美術市場への諦めという内容でした。
村上さんのスタジオは多くの部門があり総勢250人前後のスタッフを抱えています。
著書を読むと、初期は給料もなく、スタッフが突然いなくなったりするような厳しい環境だったようです。
今でもきっと新しい人が夢を持ってスタジオに入っては、いろいろな理由から去って行っていることでしょう。

どんなに強く思い描いても継続して努力をしてゆくことは難しいのです。
欲が出て、怠惰になり、現状に不満を感じます。
その中で努力し続けることができる、ほんの一握りの人だけしか生き残れません。
初心なんか忘れてもいいけど、努力を忘れてしまって、続けられる世界じゃない。
美術の世界は時に輝いて見えるけど、中の人は生身の人間で
毎日、地を這うような活動をしています。
京都の活動も一年が過ぎて、また新しい葛藤の中で作っています。

チームで作るという壁に毎日挑んでいる今日この頃。