天然素材の色彩表現

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近作の螺鈿を使った作品は
伝統技法の色彩表現を意識して制作されています。
例えば

金彩螺鈿平棗 「午前6時」

金彩螺鈿平棗 「午後6時」

この2つの作品は2018年に制作した
「青貝棗」の展開となります。

これらの作品は全て貝の真珠層が持つ天然の色と金の板を使った表現です。
天然のものだから、真珠層は複雑な色味が入り混じって輝きます。
色の変化も面白いのだけど、その中から欲しい色だけを選んで使っています。
螺鈿の材料の薄貝の中から欲しい色を選んでゆくと全体の5パーセントくらいしか使うことができません。
マグロでいう大トロって感じです。

初めて青貝棗を制作したとき
「こうやって色を選んで作業してるけど、最終的に色の違いが出なかったらどうしよう」という思いがありました。
パーツごとに色を見極めていたけど、それでも開始数ヶ月はどこまで色彩表現できるかわかりませんでした。
第1作は制作に8ヶ月かかりました。
結果、目指していた色が得られたので、僕の中の表現が花開いたような気持ちでした。

「午前6時」
「午後6時」は前作の発展形で、
より微妙な色彩を得るべく、貝の種類を増やし、そして金属を使うことで
表現の幅を広げました。

この仕事はやはり、時間のかかる表現で
何よりも完成してみないとイメージがつかみにくいのです。
最終的な表現はツルリとした輝く棗という印象ですが、
途中段階は人間の限界へ向かう息遣いそのものという表情です。

このザラつく微細な素材を漆で塗り込めて
最後に研ぎつけ、磨くことで素材本来の魅力を最大限まで引き出せます。


小さな作品でも一日8時間作業をしたとして6ヶ月以上かかります。
毎回「このシリーズは今後作ってはダメだ」と思うんだけど、
「欲しい色のためなら挑戦しなくては」という馬鹿な自分がいます。

高速に進歩している現代で、アナログな色彩表現を求めるのは愚かだけど、
挑戦する価値を感じます。