普通のサラリーマンだった父が漆掻きになる

六月は漆かきが始まるシーズンです。
父と僕と漆かきの記事をリライト。


父は普通のサラリーマンでした。
退職するまでNTT一筋で働いて僕と姉妹を育ててくれました。

実家の家業は梨農家
20世紀梨といえば鳥取県というイメージがあると思います
幸い祖父母がとても健康だったため、父が退職するまで
専業農家として土地を守り
父親は週末の兼業農家を続けて退職を迎えたわけです。

16年前から家業の梨を一切やめて梨の木を全て伐採。
そこに漆の木を植えました。(家業は米と野菜作りにシフトしてゆきます。)
さらに数年に分けて、第2、第3の植栽地にどんどんと漆を植えてきました。
今から冷静に考えてみると、
20歳そこそこの自分の、作家としてのエゴに家族や家業を巻き込んだとんでもないことをしてしまったとも思います。
しかし、漆の木は漆液を採取するまでに10年以上かかるので
活動の初期において、植栽をスタートしていたため
このように初個展に全て自分で管理した最良の漆を使うことができたのです。

さて、漆を採取する人を
「掻きこ」や「漆掻き」と呼びます。
紙すきの夏場の仕事として、また専業の職人としての歴史があります。
独特の道具を使って漆を集めますが、
どのような仕事をしているか紹介します。

漆の木から樹液を集めるという作業ですが、
自然相手の仕事です。
木の負担を最小限に抑えつつ良質の漆を最大量採るために
漆に傷を四日ごとに入れてゆきます。
この傷を「辺(へん)」と呼びます。

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この辺を入れたところから漆を集めてゆくわけです。
我が家は今年10本漆掻きをしたので、1日に3本のサイクルで
父は毎日漆畑に通いました。
(掻き傷を入れた木は四日間休ませます)
そこから得られた漆を小分けの試験管に日付をつけて保存して
一定量取れた段階で京都の工房に送ってもらいます。

漆は10年育てて200グラムと言われるほど採取量が少なく貴重です。
しかし、父から送られてくる漆は10本で5キログラムを超えます。
これは元々梨の植栽地だったため土が最高であることが考えられます。
そして、父親ができるだけ無駄なく採取しようとした木への愛情と
根気からくるものです。

漆掻きという伝統的な技術ですが、
父は持ち前の勤勉さと愛情で1シーズンですっかりプロの漆掻きになったような気がします。
漆の質はどうか?
それが最高なのです。まだ6月7月に採取した「初漆」しか使っていませんが、
乾き、伸びが良く「初漆」としては最高クラスの使用感です。
さらに、蒔絵に使う絵漆や塗り込みの呂色漆もクオリティが高いのです。
ただ、秋口に採取する末漆は下地に使いますが、乾きが悪く、京都の冬には不向きでした。


春頃まだ柔らか〜〜い父の顔ですが

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9月はじめに会ってみると
道具が本格化していて

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佇まいもなんだかプロっぽい。。

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秋になって会ってみると

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完全にプロの目だった。
なんかかっこいい。

ありがとうお父さん。