物を通して心を伝える

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「漆器は高くないと売れなくなるな。」
そう思うきっかけがありました。

数ヶ月前に食洗機を買いました。
「食洗機ってしっかり洗えるのか?」少々疑っていたのですが、
使ってみて生活のストレスが1つ減るレベルで良い商品でした。
手洗いよりキレイに洗えます!まさに時短。
これは各家庭に必ずあったほうがいい家電です。
洗濯乾燥機と食洗機は忙しい時代に時間を提供してくれる必需品といえます。

さて、食洗機を使い始めたことで、
「あ、これは食器としての漆器を考え直さなければならない」と感じたのです。

食洗機に漆器を入れるのは抵抗があります。
食洗機は熱湯と熱風で洗い、乾かしてくれますが、
それが漆器にとって良くない気がします。(実際に試していません)
蒔絵とか、螺鈿が入っているともっと気がひけるので、手洗いします。
すると、漆器が気軽なものではなくなってしまいました。
食器洗いの自動化が起こると、漆器だけ個別に洗わなければならない。

つまり、手間がかかります。

物事が便利になると、前まであったものが急速に廃れてしまうのが常です。
漆器も機械洗いが普及すれば、より数を減らしてゆくのは容易に想像できます。

食洗機でも大丈夫な漆を作れば?という発想が生まれるかもしれません。
でも僕はそれはあまり良くないと思います。
食洗機でも使えるという食器の一般性能に追いつこうとするのは
つまり、ライバルを陶器やガラスやプラスチックに設定していることになります。
その戦い方が現状の漆器業界の苦戦の原因なので、
便利なことや安価なことを追求してはダメだったのです。

解決策は、
○顧客を絞る
○商品ラインナップを絞る
○無理のない価格設定をする
そして、一番大切な
○文化を作り、売る

まず、陶器やプラスチックと張り合って
どこにでもある大量の食器を作るという戦略はこれからもっと厳しくなります。
身近さや手軽さから離れるのは辛いですが、
もはや日常の器として漆器のポジションは無いです。

漆の食器がこれからも使われるとしたら、
それは大切な文化として食とよりそう事しかできないと思います。
つまり、丁寧な料理を丁寧な器に入れて楽しめる人にだけ伝える。
そして丁寧に扱ってもらう。

漆の食器は
便利ではありません。
だけど、丁寧で美しいものです。
それは日本の食文化に寄り添ってきた大切な心です。

僕たちは物を通して心を伝えたいのです。