カテゴリー別アーカイブ: 漆に生きる日々

これから漆を植えてみようと思う人へ

僕は全国で「漆を植えよう!」という機運が高まるのには大賛成です。
でも、漆を植樹した林が放置されて、雑草に飲み込まれ、枯れた状態を目にするのを見たくありません。
文化的にも意義のある漆の植栽ですが、漆の植栽は林業とも農業とも違った性質があります。

何度も書いていることですが、
漆を栽培して、採取するまでには少なくとも10年以上の時間がかかります。
その間、下草刈りなど、夏場の仕事があります。
漆の木は里の木なので、勝手に自生して繁殖するというよりは
人間に寄り添って、世話をしてはじめて育ちます。
放置していたら高い確率で枯れます。

そして、10年後に採取できる漆の量は
一本から200gから500gくらいです。
その後伐採して、樹木を更新して行きます。

植えること、そして採取することは
難しいけど、できるかもしれません。
だけど、漆を植える目的は、漆を植えることではなく
最終的な目的があるはずです。
それは、使われること
大々的な漆の植樹において、わりと見過ごされる
使われるまでの仕組み。

不思議と漆は素材自体人を惹きつける魅力があります。
縄文時代から人間とともに歩んできた素材だけあって
携わると、前が見られなくなるくらい魅力的です。

でも、僕たちの世代は、漆との付き合い方をアップデートする必要があります。
縄文時代と同じように、木を傷つけて一滴ずつ集める方法はやめるべきです。
植樹に関しても、さらなる研究が必要です。
漆おことにあると、感情的になるけど、
現代を生きる僕たちは、漆の未来を考えるとき
技術の解決が必要だと思うのです。

植樹法のも採取法にもまだ改善の余地はあります。

今年の鳥取漆

僕が使っている漆は、地元の鳥取で採取されたものです。
15年前から育て始めて3年前から、漆液の採取が開始されたことは何度か書いてきました。
採取された漆は、1年寝かせて精製してもらっています。

どのように精製されているかというと、
採取されたままの漆液は表皮などのゴミが多いので
漉します。
漉す前の漆を 荒味(アラミ)漆
漉したものを 生上味(キジョウミ)とか生漆(キウルシ)と呼びます。
生漆は水分量が多く、乳白色をしています。
そこから水分を飛ばし、鉄粉を混ぜて黒変させたものを呂色(ロイロ)漆と呼びます。

僕が使う漆は、環境に合わせて乾き方を調整しているので
細かく対応してくださる堤浅吉漆店さんにお願いしています。
見学に行った時の記事はこちら

堤浅吉漆店 HP http://www.kourin-urushi.com

前回記事でも書いたように、堤さんにはたくさんの漆ストックがあり、細かい調整をお願いすることができます。
今年の漆は、少し乾きが遅くて、もう少しだけ、乾きと粘度を調整してもらおうと思います。
2年前に精製してもらった鳥取漆は最初の年は柔らかすぎて使いにくかったけど、2年寝かせていると理想の粘度と乾き具合になりました。
それをサンプルにして、調整をお願いしようと思います。

こういう細かい調整をお願いできるのも、京都にいて頻繁にコミュニケイション取れているからだと思います。
漆の精製も理想に近づいて行けて本当に京都に来て良かったと思います。

さて、どんな漆が仕上がってくるか楽しみです。

普通のサラリーマンだった父が漆掻きになる

六月は漆かきが始まるシーズンです。
父と僕と漆かきの記事をリライト。


父は普通のサラリーマンでした。
退職するまでNTT一筋で働いて僕と姉妹を育ててくれました。

実家の家業は梨農家
20世紀梨といえば鳥取県というイメージがあると思います
幸い祖父母がとても健康だったため、父が退職するまで
専業農家として土地を守り
父親は週末の兼業農家を続けて退職を迎えたわけです。

16年前から家業の梨を一切やめて梨の木を全て伐採。
そこに漆の木を植えました。(家業は米と野菜作りにシフトしてゆきます。)
さらに数年に分けて、第2、第3の植栽地にどんどんと漆を植えてきました。
今から冷静に考えてみると、
20歳そこそこの自分の、作家としてのエゴに家族や家業を巻き込んだとんでもないことをしてしまったとも思います。
しかし、漆の木は漆液を採取するまでに10年以上かかるので
活動の初期において、植栽をスタートしていたため
このように初個展に全て自分で管理した最良の漆を使うことができたのです。

さて、漆を採取する人を
「掻きこ」や「漆掻き」と呼びます。
紙すきの夏場の仕事として、また専業の職人としての歴史があります。
独特の道具を使って漆を集めますが、
どのような仕事をしているか紹介します。

漆の木から樹液を集めるという作業ですが、
自然相手の仕事です。
木の負担を最小限に抑えつつ良質の漆を最大量採るために
漆に傷を四日ごとに入れてゆきます。
この傷を「辺(へん)」と呼びます。

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この辺を入れたところから漆を集めてゆくわけです。
我が家は今年10本漆掻きをしたので、1日に3本のサイクルで
父は毎日漆畑に通いました。
(掻き傷を入れた木は四日間休ませます)
そこから得られた漆を小分けの試験管に日付をつけて保存して
一定量取れた段階で京都の工房に送ってもらいます。

漆は10年育てて200グラムと言われるほど採取量が少なく貴重です。
しかし、父から送られてくる漆は10本で5キログラムを超えます。
これは元々梨の植栽地だったため土が最高であることが考えられます。
そして、父親ができるだけ無駄なく採取しようとした木への愛情と
根気からくるものです。

漆掻きという伝統的な技術ですが、
父は持ち前の勤勉さと愛情で1シーズンですっかりプロの漆掻きになったような気がします。
漆の質はどうか?
それが最高なのです。まだ6月7月に採取した「初漆」しか使っていませんが、
乾き、伸びが良く「初漆」としては最高クラスの使用感です。
さらに、蒔絵に使う絵漆や塗り込みの呂色漆もクオリティが高いのです。
ただ、秋口に採取する末漆は下地に使いますが、乾きが悪く、京都の冬には不向きでした。


春頃まだ柔らか〜〜い父の顔ですが

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9月はじめに会ってみると
道具が本格化していて

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佇まいもなんだかプロっぽい。。

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秋になって会ってみると

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完全にプロの目だった。
なんかかっこいい。

ありがとうお父さん。

漆の木便り

先日少し時間を作って実家に帰ってきました。

父親の漆掻きもも順調で今年も十分な量の漆が採取できています。

そして、
念願のイチジク!食べてきました

漆を採り終えた木を伐採できない

漆の木は10年以上育てて
1シーズンで樹液を採取しきってしまい、伐採されます。

セミみたいに、じっくり育った後
一夏で命を終えるような感覚です。

さて、我が家では昨年から13年育てて来た漆の採取が始まりました。
木のサイズとしては高さは7mくらい幹周辺が75cmといった感じで
なかなか立派な木に成長して、植樹されている場所も見事な林といった感じです。

一般的に漆の採取は「殺し搔き」といってシーズンで採れるだけとって伐採してしまうのが主流です。
もともとうちもその方針で進めていたのですが、
父親がどうも木を伐採したがらないのです。


実は今年初めて父の漆搔きに同行したのですが(二日間だけだけど。)
なんとなく、伐採できない理由がわかったような気がします。
理由は
木が可愛すぎるから
漆バカもここまで来てしまうと狂気じみて来ますが、
10年以上育ててくると、ある種の感情移入は確実にあります。
根っこから育てて来た頼りない棒切れをここまで大きくした充実感
そして、夏の間中傷を入れてその度に樹液を出してくれた木への思い。
たった2日ながら、漆かきに立ち会うと特別な感情が生まれます。

そして伐採できない理由がもう一つ。
日陰がなくなる
これは実務的なことですが、林が形成されていると、木陰が生まれて
夏場でも清々しいです。暑い中でもシートを敷いて昼寝がしたいくらい
気持ちい林になっています。
そこから木を伐採してしまうと一気に炎天下となって、
来年の漆かきが苦しいものになってしまうのです。

というわけで、搔き終わった木もしばらくはそのままにして近くに
新しい木を植樹し、そして新しい木の成長を待って更新してゆく林の作り方を進めてゆこうと思います。
漆の大産地では、このような方法をとることはないと思いますが、
我が家の漆畑はできるだけ、一本一本の木と一緒に育ってゆきたいと思いました。

今年も漆掻きスタート

先日母親から電話があって
今年も漆掻きが始まったとのこと。

ところが、少しトラブルがあって
近くで火事があって近隣の野原が焼けたらしい。
幸いというか、不幸中の幸いで漆畑には火が届かなかったようです。
ただ、草刈りを済ませていた場所は少し焼けてしまったのだけど、
父親がたまたま途中で草刈りをやめていたから広がらなかったらしい。
たまたまですが、よかった。

それと、今年漆を掻こうとしていた木が一本倒れていたようで
原因は不明。
母曰く、サルノコシカケ(キノコの一種か?)が木に生えていて
養分を奪われたのではないか、と予想している。

しかし、いつものことですが大きくなった木が倒れたり
立ち枯れするのはとても悲しいことです。

倒れた木から枝漆を採取する父の写真が送られてきました。
「20cc水分少なめ」というメッセージとともに。
倒木の漆も大切に使おうと思います。

今年はどのような漆が採取できるのか楽しみです。

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漆は日々美しくなってゆく

漆の魅力の1つに透けがあります。
実は漆という素材は、固まってからも変化を続けます。
まず固まった直後というのは、多少ゴム質なしっとりとした塗膜を形成しています。
それが数ヶ月、数年してくるとより硬質になってゆき、カリッとしたかたい塗膜になります。

漆器としての使用感にはあまり変わらないとおもいますが、作業をしていると数年寝かした塗膜は硬くて研ぎの仕事に時間がかかります。

次に色の変化があり、これは特にわかりやすいです。
黒い漆器では変化をなかなか感じられませんが、朱の漆器は漆の透明度が上がり顔料の発色が良くなります。
また、蒔絵の作品なんかも透けによって奥に沈んだ金の発色が良くなります。

引っ越ししていたら昔の写真が出て来たので
ご紹介。

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この写真の蝉の蒔絵、羽根部分を見比べて下さい。
左が蒔絵した直後、学生時代なので12年くらい前、右が現在です。
見てもらうと、右の羽根が随分と明るい金色に変化しているのがわかります。
この部分は梨地という蒔絵技法で、
金粉の上に透けの良い漆が何層か塗り重ねてあります。
漆の飴色から金が覗く技法なので、漆の質が出やすい技法とも言えますね。

毎日のように使う道具なので意識していませんでしたが10年でここまで明るくなっていたとはおもいませんでした。
作り手の僕からしても漆という素材に日々感動。

不況時代の作家

僕たちの世代は好景気というのを知りません。
不況の中から生まれてきた作家というのは、ある意味とても強いのではないかと思います。
お金もアートも流通が鈍い中で育ち、活動しているので
「これくらいでなんとかなる」という甘い部分があると一瞬で消えていくことを知っています。

厳しい時代に生まれたことは確かだけど
バブルを知らないというのは良い面もあります。
それは、必要以上の絶望がないことです。
良い時期を知らないので、時代のせいにすることや
環境のせいにすることができません。
厳しいというのが前提にあるため、活動を多様化させたり
とにかく工夫して生き抜いてゆきます。

これからは権威があればなんとかなるという時代ではなくなります。
公募展の出品者が年々減っているのもそのためだと思います。
僕たちやその下の世代の作家にとって、美術業界は「夢のある業界」ではありません。

だけど、僕たちは美術を続けています。
逆境であっても「夢のある業界」を見ていないぶん
夢を作れる希望みたいなのを感じます。

ブログが続く理由

自分で言うのもどうかと思いますが
こんなに続くと思わなかったブログも一年半書いてきたことになります。
今では日課となり(休む日も多いけど)楽しく書いています。

僕がブログを書き始めた間にも漆関係の人や美術関係の人がブログを始めたりしています。
でも、辞める人も多い。
わからなくもないです。そりゃあ日々忙しいのに、時間を作ってコツコツ記事を書くのは
場合によっては苦痛ですよ。
「よく毎日書くことがあるね」と言われますが「書く事無くても書く」って決めちゃったから日々の気づきを文章にしているわけです。

さて、ブログを続けることができない人となんだかんだで続けてきた僕には少しだけ違いがあったように思います。
それは、、、
その1
真面目に書くと続かないからテキトーに書く。
読んでくれている人に失礼ですが、当初の目標は適当に長続きさせることでした。
だから、最初の方の記事はものすごく短い記事が多かったです。
「それならツイッターでいいんじゃない?」ってくらい短いし適当な記事でした。
一方、続かない人は、頑張りすぎています。
とても内容が充実していて、写真もあってデータもしっかり。
でも、それって疲れてしまいます。
僕もたまには真面目なこと書こうと思うけど、疲れてしまうから80パーセントは気を張らなくて書けることを書いています。

その2
普段使ってる言葉で書く
文章だから、誰かに読まれるから
しっかりした文章を書きたくなります。
その誘惑に負けないようにしています。
〜〜である。〜〜だろう。
論文みたいな文章を書きたくなります。
でもそれをしません。
自分のことを「私」と書きたくなりますが、普段「僕」を使っているので
そのままの話し言葉で書くことを心がけています。
理由は、自分じゃない言葉を使っても意味がないし、何より疲れるからです。
ブログはリアルな自分の表現の場なので、知的に見せたい衝動を必死に抑えています(笑)

その3
間違いを気にしない
僕のブログ、誤字脱字がすごく多いと思います。
ごめんなさい、でもこれからもなくならないと思います。
最初のうちは、たくさんの方がメールで「ここが間違ってるよ」と親切に教えてくれました。
現在では程よく諦めてもらっているのか、「まあ、こんなもんだわな」と思ってもらえてるのか
誤字の指摘をいただけなくなりました。
でもそれは、僕のブログを読み慣れていただけていることなのだと無理やり解釈しています。
誤字脱字には気をつけていますが、あったらそれも楽しんでください!

最後に
個展に来てくれた方から「ブログ読んでます」とお声かけいただけました。
それがとても嬉しかったです。
先輩風吹かせたり
上から目線だと思われるようなことも書いているかもしれませんが、
脚色しない生身の自分を表現したいと思っています。
「漆芸作家」という一般的に聞いたこともないような職業の人間の生の声
それがこのブログ「漆に生きる日々」です。

生きているといろんな顔を持っていなければならないけど、
「ブログくらい本音でもいいんじゃないか」という発想が
僕がブログを書き続けてこれた理由かと思います。

鳥取漆の特徴

昨年から始まった鳥取漆の採取
10本の漆の木からおよそ5キロの漆が採取され
生成して作品制作に使っています。

採取された漆は自分用と
いつもお世話になっている恩師に使ってもらうために
精製したものを送りました。

自分で使ってみた感想は
初漆の乾きは良好で伸びもよく
贔屓目なしで今まで使ってきた漆の中でもトップクラスの品質だという実感があります。

塗りに使う盛り漆は
実は冬場は難しくて、乾きのコントロールができませんでした。
柔らかめの漆で乾かす条件の難しい漆かと思っていましたが、
少し暖かくなってくると、とても扱いやすい漆になってきました。
一番の特徴は硬さですが
特に黒呂色という黒い漆にした時に違いが現れます。
通常黒呂色漆は粘りが強い特徴がありますが、
鳥取漆はよく言えば柔らかく刷毛目が消えやすい特徴があります
一方その特徴は流れてたまりやすいとも言えるので、塗り厚の調整が必要でもあります。

生地呂色という透明度の高い漆は
概ね一般的な日本産漆の特徴を持っていて、扱いやすい漆となりました。
関東の乾燥した冬場は難しい漆でしたが、夏に向けて使いやすくなってゆく気がします。


使用していただいた先生方のご意見も関東の冬はなかなか難しいけど
透けは良好で調整しながら使ってみるとの感想をいただきました。
輪島の先生からはキメが細かく、若い木とは思えないような塗り肌だったと
ありがたい言葉をいただけました。

この言葉を早速、父親に話すととても嬉しそう。
「今年も頑張って掻くよ」と言ってくれました。

同じ場所に植えられた漆でも
採取した年によって特徴があります。
今年はどのような漆が採れるのか楽しみです。

また、今年は精製する漆を1種類にしぼってみようと思います。
盛り漆という夏場に取れる漆から生地呂と黒呂色を精製すると精製ロスが多いので
数年に分けて何種類かの漆を作ってゆこうと思います。