蒔絵玳瑁宝石箱 「刻」

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僕の出世作とも言える作品
蒔絵玳瑁宝石箱 「刻(とき)」
この作品は僕が31歳くらいの時作った作品で、
日本伝統漆芸展で賞をいただきました。


さて、刻というタイトルですが、
光が刻む記憶や、人間の鼓動の記憶みたいなものを描く作品を作りたいと思いつけました。
中央に刻々と連なる光は、宇宙の光、そして人間の鼓動を表して、
一点の出発点からどこまでも続く光のイメージが箱に表されています。


宇宙には長い時間を経て僕たちの目に入ってくる光があって、
何万光年の旅を経て僕たちが目にする時、その光を発した星は存在していないということもあるでしょう。
それって少し不思議じゃないですか、
タイムラグがあるにしても、単位が大きすぎてよくわかりません。

でも、そのタイムラグの中間地点には確かに光として
その光を発した光景が残っているわけです。
そして終わってゆく様も。
それって少し不思議。
光源はすでにないのに、光は残っていて、旅をし続けている。


僕たち生きている人間にも、
伝えきれない気持ちや、言えなかった思いをそっと抱えながら、
長くても100年くらいの命を生きてゆきます。
誰にも見えないかもしれないけど確かにある気持ち。


光や想いに形はないけど、
確かにそこにあって、
刻々と時間の中に消え去ってゆきます。
いや、消え去ったように見える。

もしそれらに形を与えることができるならば、
「ああ、僕は漆でできるかもしれない」
そう思って作りました。