プロになる瞬間

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専門分野においてプロになるとはどのようなことでしょうか。
僕は学校を出て、室瀬和美先生の元へ修行に行き
「その過程でプロになるのだろう」
という、どこか他力でプロへ移行してゆくように考えていました。

というのも、プロの現場で活動することで
自分にもその緊張感が宿り、気づいたらプロ意識が芽生えると考えていたからです。
だけど、それは微妙に違いました。
実は先生の元で仕事をしている分には、環境の影響もあり
ぐんぐん感覚が伸びて、失敗を繰り返しながらもプロの仕事ができていました。

だけど、独立すると
自分の仕事のペースがうまく作れませんでした。
単純に蒔絵の時間配分をつかむための準備期間が必要だったし、
一人でプロレベルで仕事するのに色々時間がかかってしまいました。

僕がプロになったきっかけは意外な出来事でした。


僕は20代の後半に親戚のおじさんに家紋の蒔絵を頼まれていました。
家紋のパネルができて額装して実家に送り
おじさんにはお礼の手紙をしたためて
母に「この手紙と一緒に渡してください」と伝言しました。

その手紙を読んだ母から電話が(読むのもどうかと思うけどw)
「あの手紙はお母さんが捨てました」
「あなたはプロなのだから、いらない謙遜する必要はないでしょう」
内容はご想像の通り


この度はありがとうございます。
中略
まだまだ未熟な部分はあるかと思いますが、
中略
ご指導をお願いします。


まあ、日本的な謙遜が含まれた内容です。
なんとなく、形式的にへりくだらなければならない気がしたのです。
贈り物には
「つまらないものですが」
受け取る側は
「お気遣いなく」
でも、実際そんなことは必要なくて
最高のものには
「最高のものができました」
受け取るときには
「ありがとう!」
というのが一番気持ち良かったりします。

母が僕の手紙を捨ててくれてから
形式的な手紙を書かなくなりました。
プロになったというきっかけは色々あったけど、
プロとしての生き方の指針となった出来事でした。