むさくい
僕の作品はとっても作為的です。
まず、図面をひくときから構図や図案ができている一点物が多いのです。
「これはいいな」と思える作品は、ラフな図案の時からほぼ完成まで変化なく仕事が進行してゆきます。
途中で「ここを変えた方が良いな」と思って変更しても、やっぱり一番最初の図案になる事が多いです。
さて、蒔絵という技法もとても作為的な技法です。
まずラフな図案を紙に清書しそれを薄い和紙に描き写し、裏から置き目という作業をします。
置き目という下描きの上から漆で描きます。その漆が乾く前に金粉を蒔きます。
図案→清書→和紙に清書→裏に置き目→蒔絵
このようにほぼ同じ図案を5回描いて作品を制作する事になります。
この作業の中に入れる無作為の要素はほぼありません。
全て僕の頭の中にある造形と意匠で作品は完成に向かってゆきます。
しかし、実は作為的な物ってそんなに面白くないんです。
機械がプログラム上でスポーツをしていても面白くないように、
生身の人間がスポーツをしているから面白いんです。
人間だからできるプログラムにないドラマがスポーツの醍醐味ですよね。
作品にもその要素が必要です。
がっちがちの堅ーい作品より、どこか人間的でないと実は作品として成立しない。
蒔絵の作為の中に入り込む無作為の要素。
それが素材感だと思います。
一番わかりやすいのが螺鈿です。
螺鈿とは貝を薄く削った物を漆に貼付けたり嵌め込んだりする技法です。
貝は海からとれる天然素材なので、1つとして同じ物がありません。
また、光を七色に反射するため、見る角度によってキラキラと輝いて見えます。
作品の中に効果的に螺鈿を取り入れる事で
無作為の要素が入り込み、作品として成り立ってくれていると考えています。
漆芸作品の多くは立体作品なので、このような天然素材を効果的に使って
立体特有の魅力を演出する事ができます。
この作為と無作為のバランスが蒔絵の魅力です。
この辺りのキラキラ感が写真ではお伝えできないので、ぜひ機会がありましたら展覧会場へおこしください。