プラスチックは漆のライバルじゃない。

よく言われる「漆業界の衰退は日本人の生活様式の変化である」という説。
半分は当たっていて
半分は見当はずれな気がします。

この生活様式の変化の中にプラスチックの存在が大きく影響していると言われます。
確かに、家の食器を見渡せば大量生産の磁器かプラスチックのお椀が多いのではないでしょうか。
外食産業を見渡せば、99パーセントこのような結果になると思います。

では、漆のライバルはプラスチックなのでしょうか。
僕はプラスチックの台頭が=漆の衰退という考え方はとても危険だと思います。
つまり、プラスチックをライバルと思ってはいけないのです。

もう一つ付け加えると、「一般の方に漆を普及させたい」
という考え方もかなり危険だと思います。
そもそも一般とは誰のことなのか。
どのくらいから一般人を脱するのかは分かりませんが、
仮に年収○〇〇万円までを一般とするなら、
その中には例えば年収0円から〇〇〇万円の人までの人が入ることになります。
この広い一般層の中で購買の意味合いは全く違ってきます。

この幅広い「一般」に同じだけの熱量でマーケティングするのは不可能です。
なぜかというと、プラスチックをライバルと考えて一般の人に漆を手にとってもらおうとすると。。。
漆器にしては安いけど、プラスチックよりは高いものを作らざるを得ないからです。
おのずと、うたい文句は「手間暇がかかっている温もりのある器」となるわけです。

確かに漆器は最高の食器です。
作り手の僕は日常で漆に触れていて、
他の比べるものがないほど豊かな素材だと感じています。
とうぜんいかに手間暇がかかるかも誰よりもわかっているつもりです。
ただし「手間暇がかかっている」というのはマーケティングにおける売り文句にはなっていないです。
高価であることの理由をつけたいのですが、手間暇をかけているのは作り手の勝手です。
ストーリーとしての丁寧な仕事というのは魅力ですが、実際の価値ではありません。

では、どうすればいいのか。
漆に残された道はただ一つ、最高の物を作り続けることだけです。

安売り競争に勝つことはできないのだから
あとは上を見て作るしかないんです。

漆産業の衰退はつまり、理解してくれる人を増やそうとしたあまりに
質を犠牲にして最高の物を欲しいと思う人を置き去りにしたことが原因ではないかと思います。

残念ながら、すべての人に愛されるものなんてありません。
人を選ばないといけないのです。

プラスチックで食事をしたい人と漆器で食事をとりたい人は違うのです。

プラスチックが良い悪いではなく、違うということを認める必要があります。
そして、わかってくれる人に全力で伝えようとする。
手間暇がかかっているから高いのではなく、
良いものを作ろうとしているから手間暇をかけている
と言い換えれば、ものの魅力がより伝わりやすくなるのではないでしょうか。