言葉で点と点を線にする

漆に関わっている人は皆
例外なく
「一人でも多くの人に漆の良さをわかってもらいたい」と思っています。
漆ってとても魅力的だから
僕は青春をかけて、人生をかけて取り組んできました。

でも、どんなに強い気持ちがあっても
誰かに信念が届くかどうかはわかりません。

それは、きっと
自分の気持ちを点のように捉えるならば
人の数だけ点があって、点と点はどんなに頑張っても繋がらないことの方が多いから。

点と点を繋げるのは
もちろん作品なのだけれど、
僕は作品と同時に言葉も大切だと思っています。
そう思ったのにはきっかけがありました。


恩師である室瀬先生の作品はもちろん
先生の人柄や雰囲気がとても好きで、憧れています。
先生の本を読んで、講演会に行ってはメモを取っていました。
その中で言葉の大切さを学びました。

数年前から先生は漆器でご飯を食べることを推奨されてきました。
それまでは漆器って汁椀というイメージでしたが、飯椀こそ漆器の良さがでるというのです。
それを伝えるために
「漆器でご飯を食べてみてください。最後の一粒まで温かく美味しい食事ができます
この言葉に僕は衝撃を受けたのです。

それまで一般的な漆器の売り文句
例えば
「数百回の工程を経て作られた漆器」
「天然素材だけで作られた丁寧な漆器」
「長い時間をかけて作られた職人の技」
これら一つ一つはとても魅力的ですし、真実を伝えようとしています。

ただ、お気づきになるでしょうか。
これらの言葉は
全て自分のことを語っています

一方
「最後の一粒まで暖かい食事ができる」というのを聞いた時
ありありと
炊きたてのご飯の映像や、一緒に食事している人の顔
香りや、味まで想像できませんか?

つまり、作り手という点と使う人の感情という点が
言葉のイメージで繋がって線になっています。

自分の感情と同じくらい、あなたの感情を大切に思えるような言葉で
漆を語ることができたなら、漆を好きになってくれる人が増えてゆくでしょう。