確実に訪れる漆の未来

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こんにちは漆芸作家の浅井康宏です。
今日は必ず訪れる漆業界の未来について書こうと思います。

1,日本での作り手は減少する
まず作り手は減少します。これは日本の人口比率から見ても明らかで、
日本における高齢化は工芸の世界でも顕著です。

2,漆の価格は上がる
これも確実なことで、ここ数年国産、中国産の漆は価格変更され上がりはするけど、
下がることは今後ないと思います。

3,海外進出は限定的
残念ながら市場を海外に向けたとき、マーケットは限定的だと思っています。

この三つの「たぶん訪れる未来」について書きますが、
全てが僕自身は悲観すべきではないと考えているので、その理由とともに現在考えている
未来像を説明します。

1,作り手の減少
日本は人口自体が減っているので、作り手も減ります。
ただ、美術大学を含め漆が学べる教育機関は多く、実は後継者の育成は行われています。

問題は、
「続けるのが難しい」こと。
僕もそうだったんだけど、独立して10年くらいは年収が10万円いかないような生活でした。
(その頃のことはこちらの記事で
よっぽど華やかな活動やキャリアを積まないと売れないことの方が多い。

一方で「何がなんでも続けたい」と思う卒業生は多くて、
そんな人たちの就職先は限定的だったり、
「弟子入り」という名のブラック労働がまかり通っていて
夢を描ける仕事になっていません。

考えてみてください。
専門的に学んで、卒業しても就職がなくて、
弟子入りしても生活できないようなお小遣いしかもらえない。

この状況はあまり良くない。
なので
作り手が増える→制作のクオリティが上がる→市場が活気づく
という流れを作りたいと思って活動をしています。

具体的には活動を株式会社化して
スタッフの社会保障を完備し、完全ホワイト経営をしています。
今は数人のスタッフしかいないけど、今後、活動が拡大すれば
上記の理想のサイクルが回ると思っています。


2,漆の価格は上がる
現状日本の漆液使用の国産、外国産比率は 
日本産5%に対して外国産が95%と輸入頼みになっております。
僕が学生だった頃日本産比率は2%だったから、上向いています。
だけど、完全に輸入に頼っている状況、しかも輸入先が中国一箇所なので、
国際問題や中国の人件費問題など、状況が変われば、日本の漆産業は壊滅します。

冷静に考えて、中国の人件費がいつまでも安いとは考えられないので
これからも価格は上がってゆくでしょう。

そこで、日本の漆採取の機械化を急ぐ必要があります。
(このことに関して書いた過去記事はこちら
伝統技法と言っても、一滴一滴人が木から漆を採取することが
漆の未来だと思えないのです。

機械化して、もし漆の性質に差が出るならば、
戻る必要があるかもしれないけど、得られる漆が一緒なのに
苦労に美意識を感じ、衰退して良いわけがありません。

これは傍観者として言っているのではなく、
家族で漆を育てて、採取している立場からの発言です。

3,海外進出は限定的
インターネットが普及して世界と繋がれる時代に突入しました。
個人のレベルで、海外になんでも送れます。
では漆の海外進出は可能なのか。
ここについても夢のないことを言うと
「可能だが限定的」と思っています。
具体的に言うと、
漆器は難しい、美術品としての漆は可能性がある。
↑漆器を卑下しているわけではないので、最後もで読んでいただけると嬉しいです。

漆器の海外展開が難しい理由は
食文化の違いがあるからです。
僕たちは、箸を使い、お椀に直接口をつけて食事をしますが、
この文化はアジア限定だったりします。

漆器でナイフとフォークを使うと
傷だらけになるので、洋食全般使えません。

ここで食文化と共に食器もセットで売り込みたいとも考えていましたが、
僕らが日本的な食事に馴染んでいるように、それぞれの国の食文化にも
歴史があり、定着した習慣があるので
「こちらの文化に合わせて」と言うのは難しいような気がします。

残念ながら食洗機に木のお椀を入れると
木材が割れたりするので、日本でも食器としての漆は今後も減ってゆくと思います。


では無くならないために何をすればいいか。
僕が今考えている答えは
「美意識を先行させる」です。
先ほど述べたとおり、漆器は人を選びます。
だから、食器から漆に馴染んでもらうことがこれから難しくなると思うんです。

なので、美しい作品で漆を知ってもらう→その後生活に取り入れてもらう
と言う流れが今後の生き残り戦略なのではないかと思います。

松田権六という明治生まれの先生も
漆文化を守るにはお椀が大切だと言って
お椀の研究資料を作っていたけど、
松田先生はバリバリの作家で、食器を作る人ではありません。
つまり美意識を先行させた上で、裾野を広げる作戦を実践していたのではないかと思います。

生活に寄り添った漆器は大切ですが、
このままいくと50年くらいかけてゆっくりと滅びてゆくと思います。

今僕は
漆が衰退する未来をどうにかしたい。って思ってなくて。
こんなに素晴らしいんだから発展するとしか考えていません。

あらゆるビジネスと一緒で、間違った方向に走れば失敗するけど
雄大な漆芸史の中に生きて現代を見つめてゆけば、きっと答えは見つかると思っています。
衰退の一途を辿っているのなら、今を起点上昇できると信じています。