不思議な作品

作品を作っている時、不思議だなーと思う事があります。
実は、僕の作品って、構図をこねくり回してあるんです。
「え?うそでしょ」って言われそうですが
計算してるんですよ、ああ見えても。

1.文化庁長官賞)浅井康宏

この作品とか

蒔絵玳瑁宝石箱「光の道」

この作品
僕の代表作なんですが
目線の動きとか、わりと計算されているんです。

結果的にシンプルになっていますが、
見る人の感情をどうやって刺激できるか
日本的であるか
浅井らしい作品になってるか
蒔絵技法を無理無く取り込めているか
造形は美しいか

などなど、いろんな法則を取り入れて完成までこぎつけているのですよ。

ここからが大切なのですが、上記の理論は自分の中で完成してて
再現性があるはずなんです。
だけど、理論的に正解を当てはめて次作を作っても
すごい作品にはならないんですよ。
これは不思議です。
美術なんだから当たり前と言えばその通りですが、
成功できる構図じゃなければ、一作に何十万円と何百時間かけて作れないんですよ。
だから、理論を使って新しいけど浅井っぽくて最高の作品を作ろうとします。
それでも80点(自己採点)くらいの作品になってきます。
90点台がなかなか出せないんですよ。

90点を超えてくる作品って
途中からコントロールできなくなってきます。
主張し始めるというか、作ってて「物」とは思えなくなってきます。
「人」っぽくなってしまって、普通の感情では向き合えなくなってくるんですよ。

そうなってくると、寝るときも一緒に寝ます。
制作途中の作品を枕元に置いて、いつでも視界の中にあるようになってきます。
携帯の待ち受け画面にして外出先でも見ています。
会いたくなってしまうのです。

そんな状態だから、1つ1つの作業が楽しくてしかたないんです。
で、いつも以上の実力が出ます。
僕は全ての作品を同じように作ってきましたし
全てに理論を当てはめて作ってきているのですが、
なんで突如「人」っぽい作品ができてくるのか謎です。
小さい作品でもそんな気持ちなる作品があります。

DSCF0841

ここ最近作っていたこの作品も小品ですが
かなり感情的になった作品でした。
20点木地を作って、順次発表して今作ってる5点が最終ロットになります。
新作を作るときは、同じものを作らないので、このデザインは今回で終わりになります。
もっと良いのを作れば良いだけですが、この作品には感謝しています。

いつもこういう感情で作品を作っていたいんですよ。
どんなに小さいものだって、熱狂的に愛しながら仕事がしたい。
それで、その作品が誰かのものになって、その人に愛してもらいたいと思うんです。

作品が独立して「人」っぽくなる感じって
不思議です。