狂っちゃった
工芸分野では、木製木地が温度や湿度によって伸縮し
箱の閉まりが悪くなったりすることを
「狂う」と言います。
もちろんそのようなことがないように
何年も寝かした良質の木材を利用します。
それでも夏場と冬場では国内でも随分と気候が違うので
「狂い」は生じます。
材料には細心の注意を払って
できるだけ狂いの少ない作品作りを目指していましたが
今回の漆芸展の作品が会期中に狂っていました。
こちらの作品です、
多角形の箱ものなので、下地、塗りがとても難しい作品です。
この箱は実は五年前から制作していました。
ゆっくりと制作することで、狂いをなくし安定した作品を作りたかったからです。
しかし、何年もかけてゆっくり下地作業をしてきたのに
展覧会の会期中に少々狂って閉まりが悪くなってしまったようです。
あらかじめ話しておくと
このような蓋と身の納まり具合なども
審査の基準に入っておりますので
審査時点で、蓋の開閉に問題があれば高い確率で落選します。
もちろん、出品時は蓋と身の納まりはとても良い状態で出品しました。
しかし、関東の冬場はとても乾燥しています。
展覧会初日に作品の内部も見てもらおうと
蓋を開けた時はスムーズだったのに
何日か後の会場当番の日には
なんだか、片面の蓋の閉まりが少しだけきつくなっていました。
そして、展覧会終了の搬出の時は両面とも閉まりが悪くなっています。
実は、このようなことは初めてだったので驚きました。
蓋の内部の当たりを少し研いで調整すれば治りますが、
作品が帰ってきた後に展覧会場と同じような環境を作って調整してやる必要がありそうです。
木材が作品完成後にどのように「狂う」かは
想像できにくいですが、
世界のどこへ持っていっても大丈夫な作品を目指しているので
今回のことは大きな教訓になりました。
見た目だけではなく、様式美が大切になる
伝統工芸の分野。
蓋の開け閉めの心地よさも箱物の魅力の一つですからね。