人生と作品の重み
僕は人生より作品の方が重いと考えています。
現代においてこのように考えるのはちょっと非人道的かもしれないけど、
実際僕の人生は長くて100年くらいだし、作品を作れるのは80歳くらい。
目と手と技術のピークは40代から50代だと考えているから
そこまでにやっておきたい仕事に挑戦してゆきたい。
漆の作品は100年単位で美しさを保ち続けることができるから
当然、僕の人生より長い期間、存在し続けるわけです。
作っている本人の感覚としては、「美の敬虔な奴隷」のような気持ちです。
このような感覚は
正倉院御物から得ました。
当時の日本は本気で仏教立国を目指していて
あらゆる物事が仏教を中心に推し進められていました。
そして、大陸からたくさんの物を輸入し、それを保存し
自国の文化を形成しようとしました。
残されている御物からは、当時の工人の息吹を感じられますが、
自分を超えた何かの為に作っている感じというのが確かにあります。
生活レベルからいうとかなり高級な素材を扱って
美術品を制作することのプレッシャーは相当なものだったと思うし、
神仏のための制作となると一層です。
現代の生活の中で、それと近いような精神状態を作ることは難しいですが、
自分の感覚の先の作品を作り続けようといつも意識しています。
材料についても、最高の物しか使わないようにしています。
そうやって、少しでも現代の自分を超えたもの作りの核心に近づこうと日夜挑戦しています。
昨年の正倉院展では、当時の入出金簿のようなものも出品されていました。
そこには写経する職員の借り入れ記録などが記されていて、
彼らの人間らしい側面を見ることができました。
自分を超えていた超人のように見えた当時の工人もしっかり人間でした。
週末お酒を飲んでリラックスする自分だって愛していいんだなと思うエピソード。