最近、作品名に飾り箱とつける事が多くなりました。
以前はもっぱら宝石箱でした。
宝石箱の場合、箱の内貼りにスウェードの革を貼っていました。
宝石が美しく見えて、傷がつかないようにはっていました。

もともと僕は蒔絵の作品に用途を持たせる事に積極的で
現代の蒔絵のあり方を考え続けてきました。

しかし、最近は
造形表現としての「箱」があっても良いのではないかと思えてきました。
なので、無地のスウェードに変わって前作より、江戸時代の蜀江紋の金襴を貼付けています。
ここまでしてしまうと、宝石をいれると完全に内貼が勝ってしまい、宝石箱としての役割にふさわしくな箱となってしまいました。
用途を排除する試みというのにも悩みがありました。
伝統工芸のあり方や日本文化を考えると
これからしようとしている事は、その本流を意識していないものになってしまうのではないか。
そういう迷いが生まれました。

しかし、漆芸作品は使用の歴史とともに、象徴的な造形としての歴史もあります。
神仏のために制作されたものや、婚礼調度には使用歴の無いものがたくさんあります。
美しいものを作るために、文化的背景を組み込みながら、用途を排除してゆく
そこにどんな造形表現が生まれるのか。
なんで漆なのか、なんで箱をつくるのか。
現代になんで漆を使って表現しようとしているのか
思考は展開し続けますが、その時そのときの物のあり方を考えながら
作り続けたいと思うのです。