作家が美術史を学ばなければならない理由。

現代を生きている作家は当然ながら
美術史の最先端を走っています。
美術史を作っている存在です。
明日作る作品が美術史を塗り替えてゆくわけです。
正しくは、美術史を塗り替えてゆく可能性のある作品です。
影響力が無くて、押し入れの中にしまわれてしまっては
その限りではありませんので。

現代を走っている作家にとって大切な現代性を育む方法は大きくわけて二つあるように考えています。
1つはタイトルにあるように、美術史を学ぶ事もう1つは現代の美術に触れる事
現代の美術に触れる事はとても楽しいです。
スピード感があるし、作家の情報も集めやすい。
新作も楽しみだし、憧れの対象になってくれます。

美術史はよほどの事が無い限り、面倒です。
美術史の教科書をみていてもあまり面白くないです。
図録を見ていても許容できるものと、そうでないものがはっきり分かれます。

漆工史はわりとハードルが高いと思います。
作品によっては保存状態が悪くて、作品として鑑賞する事が難しいものもあります。

それでも現代性の高い作品を作るために美術史を学ばなければならない理由は
自分と作品を自由にするためだと考えています。
美術史って最先端の積み重ねで出来上がってきた歴史です。
今の美術だって、100年後には平成の美術という枠組みの中にはいっています。
つまり、100年後の美術史の流れの中の平成という上流に位置する事になります。

美術史は流れなので、偶然的、必然的に系統だった塊になります
ブームと言えばわかりやすいでしょうか。
ブームには必ず背景があります、美術史ではその背景を分析して
現代には何が必要なのか、分析して自分の個性をプラスして作品制作に向かいます。

一見この時代性を加味するという作業が自由と真逆に感じられるかもしれませんが
時代性は美術史を作り上げる上での必然です。
美術史を学ぶことでその流れを理解できます。
そうすると、その時代の代表作が当時の価値観を如何に転換させ創造したかが
じんわりと浮き彫りになります。
転換、創造がおこなわれた背景には、政治的要因や、宗教の影響があります。
そこを理解できると、美術史の巨人たちがどうやって必然的な作品を圧倒的な個性で作り上げてきたのか
リアルに感じれるようになります。

じゃあ今、何を作る必要があるの?

僕の目的は美術史にとって重要な作品を1秒でも早く一点でも多く作る事です。
まだそれほど大きなインパクトは無いですが、必ず達成します。

美術史を学ぶ事で、先達の魂が生きていたら現代をどういうアプローチで切り開いてゆくのか想像できるような気がします。
尾形光琳なら今をどのように生きるか、松田権六が今30代だったら何をしていただろうか。
データが豊富になればなるほど、選択肢が増えてゆきます。
系譜をたどれば、無理なく本歌取りできる表現や技法に出会えます。

明日作る作品がそこにある理由があるってのは、表現的には成功で、精神的な自由を感じます。
20代の頃、わりと真面目に漆工史を勉強しました。
全ての事を知る事はできませんが、作家にとって美術史を学ぶ事が成長につながっているので
今後も学び続けたいですね。

おすすめの本を2冊
日本漆工史ならこの一冊

渡辺素舟
『漆工 その伝統美の系譜』雄山閣出版 1979

世界美術史ならこの一冊
E.H.ゴンブリッチ
「美術の物語」