美術周辺の怪しい奴ら

美術周辺には実に怪しい奴らがいます。
「奴ら」とまで言うのは、その手口がとても汚いからです。
もっとも、この世界には真面目に活動しているギャラリストや編集者が大半をしめていますが、日陰でこっそりと活動している怪しい輩が少なからずいるのです。
僕がどうしても許せないのが、美術家をターゲットにした怪しい商売を展開する企業です。
僕を含め多くの美術家は、自分の作品を世に出したくて日夜制作に励み、チャンスをつかみたい一心でいろんな活動をしています。

そんなある日、一本の電話がかかってくるのです。
◯◯ 「浅井先生ですか?」

浅井 「はい」

◯◯ 「私、◯◯の◯◯ともうします、浅井先生の作品を◯◯展で拝見しましてとても感動しましたので、お電話させていただきました」

浅井 「はい、ありがとうございます」

◯◯ 「つきましては、このたび先生の作品を◯◯(海外)の展覧会(見本市みたいな感じ)に特別出品していただけないかと思いご連絡させていただきました」

浅井 「はい、詳細を教えて下さい」

◯◯ 「それでは1度、弊社のホームページをご覧いただきまして、後日詳細をご説明させていただきたいと思います」

浅井 「はい、わかりました」
ガチャ

ホームページを見ると、一応会社として存在している。
海外の見本市みたいなのに出展しているようだけど、アートフェアじゃないから、こちらとしてはメリットがあまり無い。

次の日電話がかかってくる。

◯◯ 「浅井先生、昨日の◯◯です。弊社のホームページをご覧いただけましたか?」

浅井 「はい」

◯◯ 「いかがでしょうか。◯◯展へのご出展ご検討頂けましたでしょうか?」

浅井 「内容を教えて下さい」

◯◯ 「はい、このたび◯◯(海外)で開かれる◯◯展に浅井先生の作品を特別出品していただきたいと思います。浅井先生にはブースをワンブロック使用頂きまして、作品を発表頂きたいと思います。出品量は2日間で40万円となります。先生ご本人が、現地に行かれる場合はご自身で渡航費用をご準備頂く必要がありますが、多忙でご無理の場合は私どもで展示等も致します。いかがでしょうか?」

このような電話やメールがたまに来るのです。
この手の輩の汚さは、情報が少ないところにつけ込んで、一見チャンスに見える仕掛けで大金を巻き上げようとするところにあります。
それも、見境無しにやってきます。
僕は学生時代に初めてこの手の話がやってきました。
雑誌への掲載依頼で価格は9万円でした。
美術専門誌、評論家の好評文など、魅力的なワードにちょっとドキドキしました。
よくわからないので恩師に相談したところ。
「お金払うんじゃなく、払ってでも紹介させてくださいと言われるようになるから、それまで待ちなさい。」
正論でした。作家からお金集めて作った美術雑誌なんて誰が買うと言うのでしょうか。
美術の世界へ与える影響力はゼロです。海外の雑多な見本市に無理矢理ブースを出すのも同じです。
美術には美術の市場があって、そこで勝負しないと知名度も影響力も上がっていきません。
お金を払って、媒体に登場しても、美術のプロからしたらお金を払ったことはすぐわかるので、逆効果とも言えます。

僕たち美術家は、限りある人生を使って、どうにか自分が持つ美意識を形あるものにしたいと挑戦を続けています。
そして、それを伝えることが人生の目的だと思っています。
どんな小さなチャンスでも、それを信じて生きています。
その気持ちを金儲けの道具にされたくないんです。

そろそろ卒業シーズンです。怪しい輩がうごめいていることでしょう。

きっと、夢をもって制作を続けていれば、正しい美術の扉が開かれる日が来ますよ。
美術周辺の怪しい商売は無くならないでしょうが、真面目な作家が被害にあわないようにしてもらいたいと思うのです。