蒔絵のここが好き

漆に出会ってからおよそ18年が経ちます。
その間、休むこともなく毎日毎日作業をしています。さいわい、なんとか生活もできるようになって、苦しいながらもスタッフに手伝ってもらい、やりたいことの2%くらいはできるようになってきました。
残りの98%はやりたいのにできていない不満の塊なので、人生の後半にはせめて半分くらいはやったと思えるようにしたいものです。

何年も漆のことを考えて続けていると、技術もついてきます。作品はテクニカルになってゆき、構図が複雑になって目線の動線なんかも作品に仕込んだり。。。などなど、高校生のとき、漆と出会った当時の物作りとはかけ離れた制作手法をとっています。
失敗が許されないので、それはそれでいいと思いますが、ふと初心を忘れているのではないかと思うのです。
僕が漆に出会って、蒔絵という技法に惹かれたのはなぜだろう。
きっとリアルに思い出すことはできないけれど、少し回想してみると。。

黒と金と青の色彩が好き!
漆の黒
蒔絵の金
螺鈿の青
この組み合わせが特に衝撃でした。今でも黒と金は萌えポイントですね。

エッジのハイライトがかっこいい!
僕が立体物(箱)にこだわる理由がこのエッジのハイライトです。
漆の箱のエッジ部分にひかりがあたると艶やかにその光を反射します。金地もいっそう強く輝きます。
それがすごく魅力的でした。自分で作業していても最後の艶上げの作業は毎回感動します。

箱を開けたときの小さな感動
箱は蓋と身からなっています。蓋が閉められているときは、中が見えません。
実際に手に取って蓋を開けたときの感動は他に言い表すことができないものがあります。
松田権六先生の鷺の箱を開けてみる機会がありました、その時の輝く蒔絵が立ち上がりのところにほどこされている情景が現れる瞬間は鳥肌ものでした。
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この作品は中もすごいんです。

これらの蒔絵の箱の特徴が僕のツボにがっちりはまってしまいました。
それ以来、どうしても自分の手で蒔絵の作品を作りたいという思いで続けてきたように思います。
今でも熱狂的に憧れます。だけど、制作態度はもう少し進化して、その感動をさらに押し進めるような表現を蒔絵で作るというテーマで作品制作していると、苦しいし迷いも生じます。
「はて、自分は何が好きだったんだろう?」と感じて初心に戻ってみると、けっきょく自分の好きな物は何も変わっていないような気がします。

やっぱり僕は蒔絵がどうしても好きで、漆を続けていきたいんですよ。