「伝統文化」=「ボッタクリ」?
小西美術工芸社という文化財を修復している会社があります。
何年か前から社長に外国人のデービッド・アトキンソン氏が就任しました。
アトキンソン氏は積極的に日本文化について言及し、活動していらっしゃいます。
著書をはじめ、講演活動も積極的にこなしています。
日本の伝統文化事業になぜ外国人が関わってくるの?と最初は思いました。
しかし、日本にとっては当たり前だと思っていたことを海外の目線で捉えることのできる、アトキンソン氏のビジョンは観光面や文化保存の観点から僕を含め、多くの日本人に気づき与えてくれるように思います。
そのアトキンソン氏の記事が東洋経済オンラインから見られます。
http://toyokeizai.net/articles/-/105913
日本の誇りを守るため「伝統文化」も変化せよ
なぜ、ここまで「ボッタクリ」がまかり通るか
日本で使用されている漆液のうち98%が中国産でわずか2%しか日本産がつかわれていない。
これで本当に日本産の漆器と言えるのかというテーマで書かれています。
価格の安い中国産の漆は広く流通していて、漆材料店でも日本産漆以上に豊富に扱われています。
教育機関でも、制作では主に中国産を用いて授業を行っていますので、よほどのことが無いと日本産をつかわないのが現状です。
日本産漆と中国産漆
作業面での違いを例えると。
日本産漆はシングルモルトで中国産漆はブレンデットという感じです。
スコッチは各蒸留所がそれぞれ独自の香りや味のあるシングルモルトウイスキーを作っています。
これが、日本産の漆です。各産地の特色があり、採取した年、時期により使用感と色味が異なります。
これにたいして、中国産漆はブレンデッドウイスキーに似ています。ブレンデッドウイスキーは各蒸留所から集められたウイスキーをブレンドして味を調整してあります。
中国産漆は常に一定の質を得られます。乾きや透けも一定で、いつも同じ状態の漆が材料屋から得られます。
この一定の性質は下地をするのにとても助かります。教科書通りの調合で乾く下地が作れます。日本産漆だとそうはいきません。
採取年と時期によって乾き方が全然違ってきます。もっと言えば採取者によっても乾きや粘度が全く違います。
僕は長年、日本産漆100%の作品を作ろうと、漆掻きさんから直接漆を購入していましたが、末辺、裏目掻き漆といった下地漆は、乾きが悪くとても苦しめられました。
中国産漆をブレンドすることで、下地の問題を解決した経緯から中国産漆も使用しています。
しかし、アトキンソン氏もおっしゃっているように、日本産100%で作るという夢もあります。
「山から育てる」とおっしゃっているように、漆は木から育てる必要があります。
僕は自分の理想をかなえるためにも12年前から実家の鳥取に漆の木を植栽し始めました。
漆の成長には10年以上が必要なので、そろそろ鳥取の漆も採取時期を迎えることができました。
これほど豊かな文化が残っている日本という国で、重要な工芸分野に携わらせていただいていると思います。
100%自分が管理した作品を作りたい一心で漆の木を植え続けてきました。
見えない部分にもこだわりぬいた作品を作ってゆくことが、日本工芸の神髄であり日本人の精神だと思います。
「ぼったくり」ではなく、最高の作品を作っている作り手もたくさんいます。
僕自身も見えないところまでさらに洗練された作品を作って見返したいと思える記事でした。