制作にかかる時間とコスト

蒔絵作品の制作には時間とコストがかかります。
これだけ情報化が進んで、物事の動きが速くなった現代において
平安時代からほとんど変わらない制作方法をとっている蒔絵の制作に「不器用だな」と思いつつ、
それでもその魅力を他の方法で見いだせそうに無いので続けています。


 

さて、実際にどれくらいの時間がかかるのか
そして、どのくらいのコストがかかっているのかを書いてみようと思います。
年間の制作費については過去記事 こちら で紹介しました。


 

今回は一点の制作について。
僕の制作は年間三回の公募展出品を柱にして、その他グループ展作品を作ってゆきます。
注文制作はほとんどしないので、メインは作品制作となります。

秋の日本伝統工芸展を柱にして、東日本支部展、日本伝統漆芸展を新しい試みの場所として発表をしています。
日本伝統工芸展出品作はおよそ2年がかりで制作します。
製図をおこして、指物師に木地制作を依頼します。約3ヶ月〜半年後に木地が出来上がるので、木地固めをして寝かせます。
締め切り8ヶ月前から下地仕事に移り、4ヶ月前から蒔絵をスタートします。
上記の日程は理想ですが、遅れて厳しくなることもあります。
制作費は日本伝統工芸展で50〜60万円の制作費をつかいます。

内訳は
木地代5〜10万円
金粉代30〜35万円
金板金10万円
鼈甲2〜5万円
漆等 3〜6万円
ここには、スタッフの人件費は入れていないので実際に計算するともう少し高くなると思いますが、
伝統工芸展出品作はほとんど僕一人で制作するので、おおよそこの金額になると思います。


 

東日本支部展と漆芸展の制作費は

木地代 約5万円
金粉代 約20万円
金板金 約2万円
鼈甲、うるし等 約5万円

このような内訳になります。
支部展と漆芸展は挑戦的な試みの場として位置づけていることもあり、作品が小振りになることもあります。
製作期間は工程数がどの展覧会作品も変わりないので、だいたい同じくらいになります。


 

たくさんの作品を同時進行させながら展覧会出品しているので
年々木地をためながら制作をしてゆきます。

このように、長期的な計画に基づいて漆芸作品は制作されてゆきます。
金の相場を中心に、材料価格が上がっても、直接作品価格に反映させられません(作家価格と材料価格は関係ないので)
材料が上がれば、そのぶん作家の取り分が減ります。下手な仕事で時間を無駄にかけてしまっても
時給計算した場合厳しくなります。
ただ、展覧会作品を作る場合、採算を度外視しないと自分の思う最高の作品を作ることができないので
そこは考えないようにしています。
極端に言ってしまえば、売れてももうけが無くてもいいと思っています。
発表して、資金的にも次の作品につながればなんとかやっていけます。