漆と気候

漆が液体から個体へ変わる時「乾く」と言いますが
実際には化学重合がおこなわれる事による、硬化が漆内で起こっているようです。
ですので、一般的な物が乾くのと少し違ったプロセスで漆を扱う事になります。

漆は空気中の水分が多い環境で硬化が促進されます。
洗濯物が乾きにくい梅雨時期に非常に素早く固まります。
空気中の水分(湿度)と同じく大切なのが、温度です。
25度〜28度くらいが最も良いと言われています。

条件が合わないと、何日も乾かない事もありますので
ひじょうに神経質になる部分でもあります。
温湿度調整するために「漆風呂」という木製の
棚に器物を入れて漆の乾きを調整しますが、
その土地の気候によって漆の乾かし方や
塗り厚を調整する必要があります。

僕が現在住んでいる埼玉県は
晴れの日が多い土地です。
冬場はとても晴れの日が多いですが
乾燥しています。

温度が低くて、湿度も低い状態は
漆にとって乾きにくい環境です。
冬場の塗りや蒔絵の仕事は
漆のコントロールが難しくて
夜中に作業部屋の暖房をつけっぱなしにしておいて
漆風呂の湿度を上げるために、噴霧器でたっぷり水分を持たせたりします。

漆産地である輪島は冬は寒いですが、湿度には恵まれています。
僕が学生時代漆を学んだ富山も同様で、冬はずっと曇っていて
雪も多いため、冬でも湿度が高かったです。
ですので、温度については気を使う必要がありましたが
湿度で困る事、乾かなくて困る事は少なかったように思えます。

理想は、夜のうちに乾いていて、朝に湿しを加えてやる事です。
夜のうちに漆が乾いていないと、午前中の湿し入れのときに
ホコリの付着等、気にしなければならない事が増えてしまいます。

人によっては、上塗りは秋と春しかしないという人もいます。
または機械で温室度を完全にコントロールする場合もあります。
漆の産地や採取年度によっても乾き方が違ってくるので
その辺りのブレンドで対応する場合もあります。
僕の場合、漆をブレンドしながら使っています。

ある程度、色々な環境でそれぞれの季節を通して
漆芸制作をしていると、どんな環境でも作れるような気がします。
海外でも日本産漆を使って制作ができるでしょう。
材料の入手がとても難しくなると思いますが
ぜひ海外で漆芸制作をしたいと思います。