漆には夢がある?

誤解を恐れず言うなら、僕は漆文化を守りたいと思って取り組んでいるのではありません。
消える文化なら消えても仕方ないと思っています。
時代に逆行してローテクな表現を極めようとしているのではなく、
単純に蒔絵に世界最高の芸術表現の未来を見ているんです。

たぶん、僕が日本以外の国に生まれていて蒔絵の事を知らなかったら、他の表現を選んでいたかもしれません。
でも、蒔絵を見る機会があったなら、必ず日本に留学して蒔絵を習いにきていたと思います。

消えてゆきそうな文化があるのなら、それは時代のニーズを満たせていないのです。
現代に迎合する必要はありませんが、本当にその分野に未来を感じているなら、
しっかりと魅力を発信してゆく責任はあるでしょう。

さて、漆文化ですが、やはり衰退しているといえます。
理由はいくつかあると思います。
まず、よく言われているのが、
生活の中から漆が消えたからというものです。
僕の作品は箱が中心で、食器が極端に少ないので、実際のところ、
一般的な生活の中から漆器が消えた事が漆文化全体の衰退の理由だとは考えていません。

この「生活の中から漆が消えた」というのは漆文化を支えていた
大量の食器、生活に則していた物の量、
漆文化全体をピラミッド構造で考えると、多くを支える土台部分がすっぽり抜けてなくなってしまったということを説明しています。

僕のブログを読んでくれている方は漆の良さを知ってくれていると思いますが、
一般的な家庭で漆の椀で食事をいただく事は稀ですよね。
僕も漆芸に出会っていなかったら、食器に漆製品があったかどうか、あやしいところです。

しかし、業界全体の縮小の原因を僕は違う視点で考えています。
先程述べた漆文化のピラミッド構造の頂点との接点がない事が全体の縮小原因だと考えます。
日本の美術振興に対する、国の働きかけは他の先進国に対して優遇措置が弱いとのことです。
(この辺りのデータに詳しいわけではないので、書籍による知識で考察します。)
とりわけコレクターの作品所蔵は単なる贅沢品の購入という位置づけで、
コレクターが公共機関に作品を寄贈するさいの税制優遇措置がひじょうに弱いようです。
つまり、コレクション、寄贈などの文化振興に対する働きへの国からの優遇が無いため、
市場の動きが鈍いようです。
(実際にコレクターさんが所蔵作品を美術館に寄贈するところへ立ち会う機会がありました、
その後聞いた寄贈した事による税金の控除額の少なさに驚きました。)

美術品には文化的な側面もあって、単なる贅沢品の購入とは違っう面があります。
特にコレクターが寄贈する際の税制措置を拡大する必要がありそうです。
下世話な話になりますが、税金対策で美術が動き、公共施設に作品が入るような流れになるくらいでないと
日本の美術全体が世界の市場に取り残される状況は今後も続くでしょう。

話を戻すと、最高級の物がしかるべき場所、しかるべき人の元に収まる事が
文化の保存と成長に必要です。
スポーツの世界で例えると
100メートル走男子の記録は80年くらいで約1秒縮まっています。
これはトップアスリートの強化が理由でしょう。
記録が伸びない分野では、競技人口が伸びる事は無いと思います。
やはり夢のある分野にしか人は集まりませんからね。

漆文化の成長を考えると
生活の中の漆器の普及と同時に、最高級の漆芸作品の普及も必要です。
これは漆文化の両輪だとおもうから。

漆には夢がありますからね。つくってる僕らも幸せなのですが、
何より漆を使ってくれる人、所蔵してくれる人を必ず幸せにできる力を漆は持っていますよ!